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2010年3月31日以後終了する事業年度に係る財務諸表から賃貸等不動産の時価等を注記することとなりますが、注記の対象となる不動産以外にも各企業にとって重要性の高い不動産は数多く存在します。
近年、会計基準のグローバル化の流れを受けて、減損会計の導入や棚卸資産の時価評価、資産除去債務の計上など企業不動産の時価情報の開示と財務諸表への反映の流れは進んできています。これに伴い各企業は、投資家や金融機関をはじめとする債権者等に対して保有不動産とそれらの投資効率について、より一層の説明責任を求められることになると考えられます。
おそらく今後は、単に時価の開示にとどまらず、その不動産を保有する意味や企業経営における位置付けなどについて、いわゆるCRE戦略の重要性が高まっていくことが予想されます。
企業にとって不動産は単なる生産財ではなく重要な経営資源として捉えられ、その活用方法如何が企業価値を増大させたり、減少させたりする重要なファクターとなる時代が到来しつつあります。
1)IFRSとは
企業活動のグローバル化に伴い、近年、会計基準の国際的統一化が急速に進んできています。IFRSは2005年にEUが域内の全上場企業に適用を義務づけたことを契機に、自国の会計基準として採用または採用を目指す国が増えており、会計基準のグローバル・スタンダードとしての地位を築きつつあります。
IFRSとは、International Financial Reporting Standards(国際財務報告基準)の略で、世界的に承認され遵守されることを目的として国際会計基準審議会(IASB)によって設定される会計基準の総称です。
このIFRSへの対応として、世界各国は大きく分けて次のいずれかの選択を迫られており、日本は現在(2)を採用していますが、将来的には(1)への移行が見込まれています。
(1)アドプション 「導入」や「採用」という意味でIRRSを自国の会計基準として採用すること
(2)コンバージェンス 「収斂」や「収束」という意味で自国の会計基準をIRRSに歩み寄らせること

2)IFRSの特徴
IFRSの特徴としては下記のようなものがあります。このうち不動産鑑定評価との関連では特に③・④が重要となります。
①原則主義 |
原理原則を明確にし、例外を認めないという方針。個別・具体の問題に関しては企業ごとに判断させ、詳細な解釈指針を定めない方針を採用している。 |
|---|---|
②比較可能性の重視 |
時系列での比較及び企業間の比較が可能となるように、代替的な会計処理方法を極力排除している。 |
③資産・負債アプローチ |
資本取引以外による期首と期末の純資産の差額(包括利益)を企業の業績指標として重視するもの。将来的にキャッシュフローを生み出せる資産状況にあるかどうかを投資家や債権者に正しく伝えることを目 的とする。 |
④公正価値評価 |
企業の経済的実態を的確に反映するために、資産を時価で評価するもの。 |
⑤経営者の恣意性排除 |
経営者の意図に左右されない包括利益の変動という業績指標を重視し、また代替的会計処理方法を極力排除することにより、会計情報に経営者の意図が反映されることを排除している。 |
⑥実質優先 |
表現の忠実性を重視する立場から、形式よりも実質を優先して企業の経済的実態を表す会計処理を選択するもの。 |
⑦豊富な注記 |
企業の経済的実態を明らかにするために、財務諸表の本体以外に、適量的・定性的に豊富な注記が行われる。 |
⑧演繹的アプローチ |
会計情報の利用者のニーズを満たす情報を提供するもの。 |
3)PL重視からBS重視の時代へ
IFRSでは、前記のとおり貸借対照表(BS)重視の資産負債アプローチが採られることになり、従来の損益計算書(PL)重視の収益費用アプローチから大きく変わります。
| IFRS | 日本の会計基準 | |
重視する財務諸表 |
貸借対照表(BS) | 損益計算書(PL) |
利益の算定方法 |
期首と期末の純資産の差額 | 収益と費用の差額 |
利益の名称 |
包括利益 | 当期純利益 |

4)企業価値評価に必要な情報の提供
IFRSは投資家や債権者が企業価値を評価するために必要と考えられる情報を提供することを主な目的としています。
投資家や債権者が意思決定する際には、将来キャッシュフローを予測することになりますが、そのためには資産の公正価値を把握した上で、当該企業が将来的にキャッシュフローを生み出せる資産状況にあるのか否かの情報を適切に提供することが必要となります。
5)公正価値評価
前記のとおり、企業の経済的実態を的確に反映するためには資産の公正価値を把握することが必要となります。
IFRSでは、公正価値は「取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引条件により、資産が交換される価額」と定義されており、これは活発な市場における時価を指していると考えられます。
また、日本の会計基準では「時価とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配または指標その他の相場に基づく価格をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とする」としています。
いずれも公正価値の定義はほぼ同じですが、不動産の場合、株式や債券といった一部の金融商品のような活発な市場が存在しないことから、公正価値をどのように測定するかが問題となります。
1)時価開示までのフローの概要
日本ではIFRSとのコンバージェンスとの一環として、2010年3月31日以後終了する事業年度に係る財務諸表について賃貸等不動産の時価等を注記することとなります。情報開示までの大まかな手順は以下のようになります。
(開示までの手順) |
|
|---|---|
STEP1.賃貸等不動産の抽出 |
・賃貸等不動産とは? ・賃貸等不動産の範囲とは? |
STEP2.総額としての重要性の判断 |
・総額としての重要性とは? ・重要性は誰が判断するのか? |
STEP3.各不動産の重要性の判断 |
・不動産毎の重要性の判断とは? ・重要性は誰が判断するのか? |
STEP4.時価の算定 |
・賃貸等不動産の時価とは?
|
STEP5.財務諸表への注記 |
・賃貸等不動産を保有している場合の注記事項とは?
|
2)賃貸等不動産の抽出方法(STEP1)
賃貸等不動産とは?
賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産で、下記以外のものをいいます。
<該当しないもの>
・ 棚卸資産
・ ファイナンスリース取引の貸手における不動産
・ 物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産
・ 連結会社間で賃貸されている不動産(賃貸等不動産に該当する か否かの判断は連結ベースで行うため)
賃貸等不動産の範囲とは?
・ 貸借対照表上、投資用不動産として区分されている不動産
・ 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
・ 上記以外で賃貸されている不動産
<賃貸等不動産に含まれるもの>
・ 将来賃貸等不動産として使用される予定で開発中の不動産
・ 継続して賃貸等不動産として使用される予定で再開発中の不動産
・ 賃貸目的で保有されているが一時的に借手が存在していない不動産
3)総額としての重要性の判断(STEP2)
総額としての重要性とは?
賃貸等不動産を保有している場合には、時価等を注記する必要がありますが、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合には、当該注記を省略することができます。
総額としての重要性の判断は、貸借対照表日における賃貸等不動産の時価を基礎とした金額と、当該時価を基礎とした総資産の金額との比較により行います。
なお、総額としての重要性が明らかに乏しいと判断される場合には、上記の時価を基礎とした金額による重要性の判断を行わずに、注記を省略することができます。
重要性は誰が判断するのか?
会計基準及び実務指針には、総資産の占める割合がどの程度であれば重要性があるとするのかについて具体的な数値は示されていません。
重要性の判断は各企業がルールを定めて行うことになります。実務的には会計監査人と相談しながら進めていくことになると思われます。
4)各不動産の重要性の判断(STEP3)
不動産毎の重要性の判断とは?
個別不動産の重要性に応じて、当該不動産の時価の算定方法を使い分けることができます。
企業会計基準では、開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいものについては、簡便的な時価算定方法が認められています。
| 重要性が高い不動産 | ⇒原則的時価算定 |
| 重要性が低い不動産 | ⇒みなし時価算定 |
重要性は誰が判断するのか?
重要性の判断は各企業がルールを定めて行うことになります。実務的には会計監査人と相談しながら進めていくことになると思われます。
5)時価の判定(STEP4)
賃貸等不動産の時価とは?
賃貸等不動産の時価は、下記のいずれかの価額を言います。
①観察可能な市場価格に基づく価額
②市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額
ただし、不動産は一般的には株式や債券等のように取引所等で取引される流動性の高い資産ではないことから、(1)の価額を採用することはありません。したがって、(2)の価額を採用することになります。 企業会計基準等においては、重要性の高い賃貸等不動産について「合理的に算定された価額」を求める場合には、①不動産鑑定評価基準による方法または②類似の方法に基づき算定することとされており、各企業は(a)自社において合理的な見積りを行うか、(b)不動産鑑定士に鑑定評価等を依頼することが必要となります。
・(a) 自社における合理的な見積
・(b)不動産鑑定士による鑑定評価書等
前記のとおり、重要性が高い賃貸等不動産に係る「合理的に算定された価額」は、不動産鑑定評価基準による方法、または類似の方法に基づき算定することとされています。
前者は、国土交通省から不動産鑑定業者に出されている通知(「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」について)において「原則的時価算定」とされているものであり、後者は海外で用いられている不動産の評価方法などがこれに該当します。
企業会計基準等に規定されている合理的な時価の算定方法と、上記国土交通省の原則的時価算定との関係は以下のような関係になっています。

6)財務諸表への注記(STEP5)
賃貸等不動産を保有している場合の注記事項
(1)賃貸等不動産の概要
主な賃貸等不動産の内容、種類、場所など
(2)賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動
・原則として取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額
・貸借対照表計上額に関し期中の変動に重要性がある場合にはその事由及び金額
(3)賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
前記「時価の算定」参照
(4)賃貸等不動産に関する損益
・損益計算書において直接把握している損益のほか、管理会計上の数値に基づき適切に算定した額その他の合理的な方法に 基づく金額によって開示することができる。
・賃貸等不動産に関する賃貸収益とこれに係る費用による損益、 売却損益、減損損失及びその他の損益等を適切に区分して記載する。
時価等の注記に係る例外
以下の場合には例外的に賃貸等不動産の時価等の注記が不要となります。
(1)賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合
(2)賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合
この場合には、時価の注記は不要ですが、時価の把握が極めて困難な事由、当該賃貸等不動産の概要及び貸借対照表上額を他の賃貸等不動産とは別に記載することとされています(ただし、重要性の乏しい不動産は除く)。
【時価の把握が極めて困難な場合の例示】
・現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林
・着工して間もない大規模開発中の不動産
1)原則的時価算定
原則的時価算定においては、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行うこととされています。ただし、不動産鑑定評価基準に則ることができない場合や基準に則らないことに合理的な理由がある場合は例外とされています。
2)みなし時価算定
みなし時価算定とは簡便的な時価の算定方法であり、重要性が低い賃貸等不動産の時価算定等に用いられます。具体的な算定方法は以下のとおりです。
(1)不動産鑑定評価手法を選択的に適用して不動産の価格を求める方法
不動産の鑑定評価においては、原則として原価法、取引事例比較法、収益還元法の3手法を適用して不動産の価格(鑑定評価額)を求めることとされていますが、みなし時価算定の場合には、手法の適用が困難か否かの判断を行うことなく、特定の手法のみを適用して不動産の時価を算定することが認められています。

(2)一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標等に基づき不動産の価格を求める方法
「一定の評価額」は、合理的な方法で算定されたものであればよく、必ずしも不動産鑑定士等が行った評価に限定されるものではありません。
| 容易に入手できる評価額 | 不動産会社等の地元精通者意見に基づく実勢価格や査定価格 |
| 容易に入手できる土地価格の指標 | 地価公示価格、都道府県地価調査の基準地価格、財産評価基準書路線価、固定資産税評価額 |
| 建物等の償却資産 | 適正な帳簿価格 |
3)時価とみなせる価額
原則的時価算定やみなし時価算定により求めた価格以外にも、時価とみなすことができるものがあります。
(1)契約により取り決められた一定の売却予定価額
企業会計基準等において、合理的に算定された価額として扱われています。
(2)下記①・②の条件を前提に、第三者からの取得時の価額又は直近に行った原則的な時価算定による価額に時点修正等の所要の調整を行って求めた金額(取得時又は直近の時価算定時からの変動が軽微な場合には、取得時の価額又は直近 の時価算定による価額)
①第三者からの取得時の価額又は直近に行った原則的な時価算定による価額が適切に算定されていること。
②第三者からの取得時又は直近の原則的な時価算定時から重要な変動が生じていないこと、また長期間経過していないこと。
1)時価の算定
貴社の賃貸等不動産の重要性や用途等に応じて適切な時価の算定方法をご提案致します。

2)財務諸表への注記




